分析コラム

Re: ALBIREX 戻るべき場所へ――数字で振り返るアルビレックス新潟2026シーズン

はじめに――「守れるチーム」に変わった一年

2026年の百年構想リーグが閉幕した。

今シーズン 「Re: ALBIREX」をスローガンに掲げたアルビレックス新潟にとっては、監督も変わり、前年J1から降格した直後の再出発という位置づけになる。

地域リーグラウンド18試合+プレーオフラウンド2試合、計20試合を戦った結果は、得点21・失点18。数字だけ見れば地味に映るかもしれない。

だが、この「失点18」という数字には昨シーズンからの大きな成長とJ1復帰への希望が隠れている。

2025年J1リーグ、新潟は38試合で67失点を喫した。1試合平均1.76失点。クリーンシートはわずか5試合で、これはリーグ19位。被ゴール期待値(xGA)との差分で見ても、想定される失点54.8から12点以上多い失点を重ね、「守れないチーム」のまま最下位でJ1から降格した。

新たに船越優蔵監督を迎えた2026年。チームは、「戦うこと」「走ること」「規律」を重んじ、20試合で失点18、1試合平均0.90失点という数字を示した。クリーンシート10試合はJ2・J3でトップタイ、失点数はWEST-Aグループ最少、J2・J3の40チームの中でも7番目に少ない結果だった。

数字からもわかるように、守備は劇的に改善した。

1試合平均失点はほぼ半減し、クリーンシート率は13%から50%へ上昇した。

その改善はどこから生まれたのだろうか。

DF陣による守備組織の向上なのか。

それともGKの活躍によるものなのか。

データを掘り下げると、興味深い実態が見えてくる。

この記事ではxG・xGAを軸に、2026年の新潟に何が起きていたのかを攻撃、守備それぞれの視点で読み解いていく。

チームとして何が起きていたのか、そしてその変化を誰が担っていたのか——数字を辿りながら、シーズンを振り返りたい。


<本記事で使う指標と用語の整理>

  • xG(ゴール期待値):シュートを打った状況(距離・角度・アシストの種類など)から算出した「期待される得点」。実際の得点と比べることで、決定力や運の要素を分離できる。
  • xGA(被ゴール期待値):守備側のxG。相手に与えたシュート機会の質と量を示す。
  • 攻撃差分(得点−xG):プラスなら期待値を上回る決定力、マイナスなら期待値を下回っていることを示す。
  • 守備差分(xGA−失点):プラスなら期待値より少ない失点(守備が機能している)、マイナスなら期待値より多い失点を意味する。
  • 攻守バランス(xG−xGA):攻撃と守備のxGを比べた指標。プラスなら「作ったチャンスが与えたチャンスより多い」攻撃的なチーム、マイナスなら「与えたチャンスが作ったチャンスより多い」守備的な試合運びを示す。

攻撃の実態――チャンスは少なく、でも無駄にはしなかった

チャンスが少なかった一年

20試合で21得点、xGは19.4。攻撃差分(得点−xG)は+1.6で、チャンスを作ればある程度仕留めることはできていた。しかし絶対値はリーグ内で厳しい水準に終わった。得点数はJ2・J3全40チーム中28位、xGとシュート数にいたっては34位。問題は決定力ではなく、チャンスの創出量そのものにあった。

J2・J3のトップ集団と比べると差は歴然だ。徳島(41得点/xG23.4)や大宮(41得点/xG34.7)が20試合で40点超を量産したのに対し、新潟は半分の21点。チャンス自体の絶対量が不足したシーズンだったと言える。

それでも攻撃差分でリーグを並べると、新潟の+1.6は全40チーム中20位。ちょうど中央だ。上位には徳島(+17.6)や奈良(+11.7)、宮崎(+11.1)といった傑出したチームが並ぶ一方、磐田(−5.3)やいわき(−9.4)、FC大阪(−14.0)のようにxGを大幅に下回るチームもある。新潟の「機会は少なかったが、作ったチャンスは無駄にしなかった」という評価は数字として成立する。

全40チームの攻撃差分を高い順に並べると以下のようになる。

船越監督は、シーズン開幕前のインタビューで、まずは守備を立て直すのかという問いに対して「基本は攻撃を考えている」と答えている。

しかしシーズン終了後の総括会見では、「守備に重きを置いて取り組んできた」と振り返っており、キャンプやシーズンを過ごしていく中で守備の方に割く比重が高くなっていったことがうかがえる。

その結果として生まれたのが、失点18、クリーンシート10という数字だった。

一方で、その代償として攻撃面は後回しになった側面もある。

船越監督自身も総括会見で、「次は攻撃を重点的に改善していきたい」と語っている。

スタッツが示す課題と、指揮官が見据える課題は一致しており、26/27シーズンでさらに進化した新潟を見れることを期待したい。

個人の内訳:誰が攻撃差分を作ったか

チームの攻撃差分+1.6の内訳を選手ごとに見ると以下のようになる(出場100分以上)。

攻撃差分がプラスの選手の合計はおよそ +7.1、マイナスの選手の合計はおよそ −5.6。

差し引き+1.6というチームの数字は、この綱引きの結果だ。

最大の貢献者はマテウス・モラエス。 12試合・864分という限られた出場でxG2.3に対して5得点、攻撃差分+2.7はチームトップ。シュート26本から5点を奪う決定率19.2%はリーグ上位陣(山本桜大19.2%、ルーカス バルセロス22.2%など)と比べても遜色ない。この攻撃差分の高さは、シュート選択の質の高さ、あるいは低xGのシュートをものにする高さを示していると言える。

シマブク カズヨシ(+1.9)も15本という少ないシュート数から3得点を奪う決定率20.0%で差分に貢献した。モラエスが「限られた出場時間でチャンスを確実にものにする」タイプなら、シマブクは「少ない機会を逃さない」タイプとして攻撃差分を支えた。

一方、若月 大和と笠井 佳祐はチーム内で最多水準でシュートを放った選手たちだ(若月29本、笠井37本)。それだけゴール前のシーンに顔を出し、チャンスを作り続けた証拠でもある。xGも若月4.2・笠井3.5とチーム上位で、シュートまで持ち込む力という点では申し分ない。攻撃差分はそれぞれ−1.2・−0.5と期待値をわずかに下回ったが、これはそれだけ多くのチャンスを受け取っていたことの裏返しでもある。フィニッシュの精度という課題は来シーズン以降のテーマになるが、チャンスを生み出すという仕事は十分に果たしたと言える。

今シーズンのチーム攻撃差分+1.6はモラエスとシマブクの傑出した決定力と、若月・笠井らがシーズンを通じて作り続けたチャンスの両輪で成り立っていたと言える。

守備の実態――数字が語る「別チーム」への変貌

2025年から2026年へ:何が変わったのか

まず2年分の数字を並べてみる。

指標2025年(J1・38試合)2026年(J2・20試合)2025年 1試合平均2026年1試合平均
失点67181.760.90
xGA54.821.01.441.05
守備差分(xGA−失点)−12.2+3.0−0.32/試合+0.15/試合
クリーンシート5試合(13%)10試合(50%)
被シュート数48824812.8412.40
被枠内シュート数153854.034.25

1試合あたりの失点は1.76から0.90へほぼ半減し、クリーンシート率は13%から50%へと跳ね上がった。

ここで一つ、重要な事実を整理しておく。被シュート数(12.84→12.40/試合)はほぼ変わっていない。それどころか被枠内シュートは4.03から4.25とわずかに増えている。 つまりシュートを打たれる回数を減らせたわけではない。

では守備は何が変わったのか。数字を一つずつ紐解いていきたい。

2025年の守備差分は −12.2でJ1最下位タイ。

xGAが示す想定失点をさらに12点以上上回る失点を重ねた。

2026年はその符号が完全に反転し+3.0、J2・J3全40チーム中10位。失点数18は全体7番目の少なさ、クリーンシート数はJ2・J3 リーグ1位タイと、あらゆる守備指標が改善した。

守備差分+3.0の正体

では何が変わったのか。まずDF陣の数字から見ていく。

DF陣:守備行動は確かに増えた

DF陣のブロック数とクリア数は、1試合平均で前年より明確に増加している。

指標2025年J1(38試合)2026年J2(20試合)1試合平均変化
ブロック数726(19.11/試合)466(23.30/試合)+4.19
クリア数844(22.21/試合)521(26.05/試合)+3.84
インターセプト数45(1.18/試合)39(1.95/試合)+0.77

ただし「シュートを打たれなくなった」とは言えない——1試合あたりの被シュート数がほぼ変わっていない以上、そこは明確に区別する必要がある。またブロック数にはシュートのブロックだけでなくパスのブロックも含まれるため、「シュートを直接防いだ回数が増えた」とも断言できない。数字が示しているのは、DF陣がボールに関与する回数が全体として増えたという事実だ。全40チームの中での順位でも、ブロック数全体6位・クリア数全体16位となっている。

その中核を担ったのが以下の三人だ。

藤原奏哉――全20試合に出場し、1,835分とフル稼働に近い中でブロック数53回・クリア数78回を記録。右サイドを主戦場としながら、ピッチ上のあらゆる局面でボールに関与し続けた。

舩木翔――19試合に出場し、藤原奏哉に次ぐ稼働率でDFラインの安定感を創出。クリア数88回はJ2・J3リーグ全体12位、ブロック数39回と合わせた「最後の砦」としての存在感が際立った。

大西悠介――シーズン後半に向けて出場時間を伸ばしていき、ブロック数45回・インターセプト数10回・タックル数71回とボール奪取系の指標でチームトップ。ラインのギャップを埋め、相手の好機を手前で摘む役割を担い続けた。

ただし、ここまで見てきた数字だけでは守備差分+3.0の説明として不十分だ。xGAが1.44→1.05/試合に下がっている点は、J1より全体的にシュート精度が低いというカテゴリの差で一定程度説明できるし、被シュート数はほぼ変わっていない。

DF陣の守備行動は増えたが、それだけで失点が半減した理由にはならない。

では残りの説明はどこに求めればいいか。答えは最後方にある。

GKバウマン:守備差分を作った主役

xGA21.0という想定失点に対して実際の失点を18に抑えた、守備差分+3.0の主役がGKバウマンだ。

15試合・1,350分に出場してセーブ数53・セーブ率79%・クリーンシート9を記録。

出場500分以上の全GKの中でセーブ率は全体3位(1位の白井裕人は7試合・2位の松原颯汰も7試合と、いずれも正GKとしては少ない出場数)、PA内シュートセーブ率73.3%は全体8位。シーズンを通じて正GKとして出場したGKの中では実質的にリーグ最高水準だ。

指標バウマンの結果全体順位(出場500分以上・53人中)
セーブ率79%3位
PA内シュートセーブ率73.3%3位
クリーンシート数91位
1試合平均セーブ数3.5回2位

本アカウントでも何どかその際立った数字を投稿してきた

各指標のリーグ全体ランキング(出場500分以上)は以下の通りだ。

セーブ率

PA内シュートセーブ率

クリーンシート数

1試合平均セーブ数

被枠内シュートが1試合平均でむしろ増えているにもかかわらず失点が激減した——その答えがここにある。

xGA通りに失点しなかった主因はバウマンのセーブ率の高さだ。この点はカテゴリのレベル差では説明できない。同じJ2・J3の他GKと比べても明確に上位の数字が出ているからだ。

DF陣の精力的な守備行動と、バウマンの高水準なセーブ。この二つが噛み合って初めて、守備差分+3.0という数字が生まれたと考えるのが妥当だろう。

おわりに――守備改革の先に見据えるもの

2026年の新潟を数字で一言にまとめると、「少ない攻撃機会を愚直にモノにして、守備でシーズンを成立させたチーム」だ。攻撃のチャンス創出量の乏しさはシーズンを通じて解消されなかった。その一方で失点18・クリーンシート10はともに全体上位。得失点差+3という数字は、守備が攻撃の乏しさを辛うじて補った結果だ。

攻守バランス(xG−xGA)が−1.6で全体25位という事実も、チームの性格を端的に示している。相手に与えたシュート機会の期待値(xGA 21.0)が、自らが作ったシュート機会の期待値(xG 19.4)を上回っていた——守りを軸に試合を組み立てるスタイルが数字にも表れている。ちなみに2025年のこの数字は−13.1だった。リーグが違うため単純比較はできないが、攻守バランスの観点でも大幅に改善されたシーズンだったことは間違いない。

攻撃ではモラエスとシマブクの合計攻撃差分+4.6が複数選手のマイナスを吸収し、守備ではDF陣が献身的な守備行動でボールに関与しながら、バウマンが枠内シュートを高い確率で止め続けた。2025年の守備差分は−0.32/試合だった。それが2026年には+0.15/試合へと符号が反転した。被シュート数がほぼ変わらない中でこの変化が起きた事実は、「止める力」が本質的に変わったことを示している。

この課題認識は、船越監督自身も明確に言語化している。6月8日の総括会見で「百年構想リーグに入る前は守備に重きを置いて取り組んできたので、次は攻撃を重点的にやっていきたい」と述べ、今後の重心を攻撃へ移す意向を明言した。さらには来季のビジョンとして「ゴール前のシーンを多く作り、そこへ多く向かえるようなサッカーをしたい」とも語っており、スタッツが示す課題と監督の言葉が一致している。

守備で自信を取り戻した新潟、再出発のための土台は築けた。

その土台の上にさらにどんなチームを作り上げるのか。

戻るべき場所へ向かう戦いは、ここから始まる。

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